2014年5月30日金曜日

紫蘭の花が咲く頃

またこの頃になった。

私には、この頃にいつも思い出す女性がいる。
この頃だけでない。あの方と、彼女の可愛い坊やの事はいつも私の心にある。坊やはもう、高校生になっただろう。

小さなレストランだが、そこにはそれぞれの想いが集まって、その想いをいつまでも忘れられない人がいる。
彼らの事を、私は一生想い続けていくだろう。

以下、2012年7月のブログです。
どうかお読みくださいm(__)m


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小さかった彼

井上 慶子

彼が初めてレストランTOMOSHIROINOUEに来たのは、まだ9歳の時だった。

両親に連れられて、可愛いスーツを着て蝶ネクタイをしていた彼。
一生懸命大人の真似をしている姿がとても可愛かったし、まだ小さい彼にはレストランのテーブルが高すぎた。

クッションを持ってきましょうか??と言うと、「大丈夫です。」と、さらに背筋を伸ばして一生懸命食べていた姿が目に焼き付いている。

ご家族で何度かお越しいただき、その度に小さな彼が成長する姿を見るのが楽しみになった。

しかし、パタリといらっしゃらなくなってしまった。…寂しい。
最後にいらしたとき、帰りがけに奥様と世間話で盛り上がり、「また来ます。」と笑って帰られたのに…。

そして1年が過ぎ、ある日のディナーにお父様と彼が2人だけで来てくれた。
いつも3人だったのに、奥様はいない。

今日、奥様はお出かけですか?? と尋ねると信じられない答えが返ってきた。

「妻は先月、他界しました。
誕生日までに元気になるから、TOMOSHIROINOUEに連れて行ってね。と言われてたんですけどね。
その前に亡くなってしまったから、今日は妻の誕生日に、息子と二人で来たんです。」

・・・・・・神様はいなんじゃないかと思った。

それから更に1年が経ち、また彼らが来てくれた。
小さかったあの子は、中学生になり、背はもう私より大きくなっていた。
部活動のことや、お友達のこと、勉強のことを楽しそうに話している。

彼の輝くような笑顔や声が、お母様に届いていると信じている。